***
「あの、本当に……ここで飲むんですか」
「うん!しんおんちゃん達は、あの奥のテーブル?」
「あー、それっぽいです」
「会話とか聞こえるかな?あーどうしよ、しんおんちゃんが、誰かに言い寄られたりしたらと思うとハラハラしちゃう〜!」
馴染みのある居酒屋に着いた今、海穂さんの隣には海穂さんにとんでもない弱みを握られているらしい菅野さんの姿。
結局、文句を言いながらも、菅野さんはこの店で海穂さんに付き合うことを決めたらしい。
「誰にも言い寄られたりしませんよ」
「そんなやついたら、物好きにも程がある」
「……菅野さんに言われたくない」
「はぁ?お前な、」
フンっと菅野さんから顔を逸らした私を見て、"やっぱり尊の嫁に欲しい〜"と笑う海穂さんに軽く会釈する。
「それじゃあまた。海穂さんもごゆっくり」
「はいはーい。しんおんちゃんも同窓会楽しんでね〜」
にこやかに手を振る海穂さんに送り出された私は、あえて菅野さんに視線を戻さず、里奈の後ろ姿が見える奥のテーブルへと歩みを進めた。


