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「すみません。アイツ、悪いやつじゃないんですけど、多少ひねくれてて。そのくせ仕事は人一倍出来るイヤミなやつでね〜」
「……あ、いえ」
勢い任せに電話を切ってしまったことを深く反省した私は、あのまま消防署へとやって来た。
本当は、別の日にしたかった。
だって、電話に出たってことは出勤していて、今も消防署にいるってことで……。
顔を見てしまえば、腹立たしさが倍増しそうだったから。
だけど、私の中で、もう一度電話をかけた時にまたアイツが出たら嫌だなって気持ちの方が勝ってしまった。
「機嫌が悪くてピリピリしてる時のアイツに関わると、まぁろくな事がないんですよ。……まったく、いつまであのままいるつもりなんだか」
「はぁ……」
謝る気満々で来たはずなのに、名乗ってすぐに、署長の堀さんという方が深々と私に頭を下げるものだから面食らって固まってしまった。
どうやら、あの電話をその場で聞いていたらしい。
堀さんは独り言のように呟いて、席で仕事をしている1人の男性へと視線を向けた。
……あの人が、例の電話の”イヤなやつ”か。


