数回コール音が鳴り響いて、プツッと言う機械音のあと、すぐに男の人の声が鼓膜を震わせた。
「はい、こちらみなみ市消防署です」
「あ……私、みなみ市立双葉小学校で教師をしている尾崎と申します」
「……教師?」
「はい!実は、今度、我が校で避難訓練を予定しておりまして、ぜひ消防士の皆さんにご協力頂けたらと思い、ご連絡させていただきました」
電話は昔からめっぽう苦手。
顔も見えない相手との心理戦だ。
ドキドキとうるさい心臓の音を聞きながら、相手の返事を待つ時間は驚くほど長く感じる。
「分かりました。とりあえず署長に話は通しておくので、後日改めて打ち合わせに来てもらえますか」
「あ、はい……。打ち合わせ……って?」
「……あんた、新人?避難訓練にも色々あるだろ?地震に火災、学校ごとに避難経路も様々。ぶっつけ本番は無理だろ」
……電話口から聞こえるため息。
お、怒ってらっしゃる!?
てか、いきなり態度が変わりすぎじゃない?
確かに新人だし、確かに無知だし……
言い返せるような要素はない……けど!!
いや、ここはグッと堪えよう。大人だし!


