「一颯がりっちゃんにつけた心の傷は、
 一颯にしか癒せないんじゃないかな?

 早く取り除いてあげたら」


「今更無理だよ」


「無理じゃないよ。

 あの時はごめんって謝るのに、
 今更とかないと思うよ。

 一颯なら大丈夫。

 だってさ、りっちゃんのこと
 一番思っているの、一颯でしょ?」


 六花のこと、一番思っている人か……


 七星が六花のことを
 本気で好きでいることも知っている。


 六花の誕生日会で家に来た時、
 六花を見つめる瞳が俺と同じだったから。


 でも、絶対に七星には負けない自信がある。


 この世で一番、六花のことが大好きなのは、
 この俺だって。


「もう、一颯。
 そろそろりっちゃんに暴露したら?」


 暗い空気を一掃するように、
 明るい声で十環が言った。


「は? 暴露って何をだよ」


「一颯が実は、甘いものが大好きだって。

 そうしないと一生、
 苦手な抹茶デザートを
 食べ続けなきゃいけなくなるよ」


 ううう…… 

 それはさすがにしんどい……


 六花が小2の頃、
 お父さんの知り合いがくれたケーキが、
 チョコと抹茶だった。


 その時、苦いのが苦手なくせに、
 六花が『抹茶ケーキにする』って強がるから
 とっさに俺が嘘をついた。


 『は? 
 俺の好きな抹茶ケーキを取るなよな。 
 俺は、甘いものが大嫌いだから』って。


 それからの俺は、
 甘いものを食べるときは隠れてこっそりと。


 お誕生日ケーキは、
 苦い抹茶ケーキを口にしてきたけど、
 六花が笑ってくれるから、
 それで良いやって思っていた。


 それこそ今更言えるかよ。
 

 そんな暴露をしたら、
 せっかく六花が選んでくれた
 抹茶マカロンのキーホルダーを
 没収されそうだし。


 俺、地味に嬉しかったんだからな。


 地味ではないか。


 その場で飛び跳ねたいほど
 嬉しかったの間違いだ。


 六花の前だし、
 お客さんの目もあるから無理だったけど。


 六花とお揃いの、マカロンのキーホルダー。


 俺の宝物だな。