紫音くんと歩いて、
 お兄ちゃんのバイト先のジェラート屋さんが
 入っている、
 ショッピングモールに着いた。


「紫音くん……

 お兄ちゃんを見に行く前に……
 買い物に付き合ってほしいんだけど……」


「いいよ。 六花、何を買いたいの?」


 紫音くんのストレートな質問に、
 どう返事をしようか悩んじゃう。


「誕生日のプレゼントなんだけど……」


「いいよ」


 そして、紫音くんのおススメのお店に
 連れて行ってもらった。


 そこは雑貨屋さん。


 男女問わず、
 幅広い層に人気の雑貨が集まるお店みたい。


 そこで私は、あるものに目を奪われた。


 これ……

 七星くんに……いいかも……


 それは、缶のペンケース。


 夜空に満天の星がきらめいているデザインの
 幻想的なペンケースだった。


「七星にあげるんだろ?」


 ドストライクな質問に、
 あたふたしてしまう。


 うんって答えたら、
 七星くんを好きってばれちゃうよね。


 そう思ったら、
 返事ができずに固まってしまった。


「もう、六花が七星を好きってことぐらい、
 俺知ってるよ。

 六花を見ていたら、すぐにわかった。
 もう、バレバレ!」


 ひえ~


 私、そんなわかりやすい表情していたんだ。


 それならもう、
 紫音くんに隠す必要もないか。


「う……うん。今日が誕生日だから。
 どうかな? この星空のペンケース?」

「七星って星好きで有名だし、
 ピッタリなんじゃない?」


 紫音くんの言葉を聞いて、 
 やっぱりこれしかないと確信した。


「私ね、このペンケースに、
 七星くんから誕生日にもらったものを入れて、
 お返ししようと思っているんだ。

 それで、私の恋は終了。

 綺麗さっぱり、
 七星くんのことは忘れることにしたんだ」


 クルミちゃんと七星くんでくれた、
 ピンクのイヤリング。


 キッチンに隠れて、私の首にかけてくれた、
 七星くんとお揃いのネックレス。


 この二つが私の手元にある以上、
 七星くんへの恋心を、
 手放すことなんてできない。


 そんな私の思いをわかってくれたかのように、
 紫音くんは穏やかな微笑を私に向けた。


「六花、よく決意したじゃん」


 私を褒めながら、
 頭を優しくなでてくれる
 紫音くんの手の温もりが、
 温かすぎて涙が出そうになる。


 私はあふれ出そうになる涙をこらえるため、
 必死に微笑んでみた。


 だめだ。


 微笑めば微笑むほど、
 ぽたぽたと大きなしずくが溢れてくる。


 泣きたくなんかないのに。


 涙がこぼれ落ちるほど、
 私なんかが恋をしてしまったことが
 惨めで恥ずかしくなる。


 そんな時、
 ふわっと甘い香りが
 私を優しく包み込んだ。


 柔らかい髪が、
 私の頬に触れたと気づいた時には、
 紫音くんの腕の中にすっぽり包まれていた。


「辛い思いした時は、
 真っ先に俺のところに来いよ。

 いつでもこうやって、
 抱きしめてやるから」


 女の子みたいに綺麗な顔をしていて、
 細身なのに、
 こうやって抱きしめられると、
 胸や腕の筋肉がわかる。


 男らしい。


 また、ここに逃げてきてもいいのかな?


 七星くんのことで、
 心が折れそうな時には。


 私を優しく抱きしめてくれている紫音くんは、
 お兄ちゃんが目当て。


 私のことなんて、
 憧れの人の妹っていう存在でしかない。


 そんなことはわかっている。


 恋愛感情がお互いにないからこそ、
 辛いときにそばにいて欲しい。


 優しさに包み込まれて、
 いつの間にか止まった涙の跡をぬぐって、
 私は紫音くんから、するりと抜け出した。


「あ……ありがとう……
 このペンケース……買ってきちゃうね」


 恋愛感情がお互いないって
 わかっているのに、
 どんな顔をして
 紫音くんを見ればいいのかわからなくて、
 私はうつむきながら、レジに走った。