ゆっくりと後ろを振り向くと、
 七星くんが真剣な眼差しで
 私を見つめていた。


 最近は、ずっと避けていた、
 七星くんのことを。


 だって、クルミちゃんと楽しそうに
 笑っている姿を見るだけで、
 私の心が苦しくなるから。


「七星……くん?」


「行くの?」


「え?」


「今、紫音くんと約束していたでしょ。
 日曜日、行くの?」

 
 なんでそんなこと聞くんだろう。


 七星くんのまっすぐな瞳が、
 私の瞳の奥まで突き刺さって、
 なぜか切ない気持ちにさせる。


「行く……つもりだよ」


 だって……

 七星くんには関係ないことだよね?


 私が誰とどこに行こうと、
 全く気にならないでしょ?


 七星くんの好きな子は……

 クルミちゃんなんだから。


 七星くんはうつむきながら、
 ぼそりと言った。


「苺ミルクの裏……見た?」


 苺ミルク? 


 それって、
 たこ焼きのお弁当箱を
 返してくれた時にくれた、
 パックの苺ミルクのことかな?


 私は何のことかさっぱりわからなくて、
 首を横に振った。


「そっか……そうだよね。 
 あんなんじゃ、気づくはずないよね……

 俺さ……」


 七星くんが何かを言いかけた時、
 ツインテールの美女が、
 七星の腕に抱きついた。


「七星、早く帰ろうよ。
 みんな待っているよ!」


 いつもこのタイミング。


 もっと七星くんと話していたいなと
 思う時ほど、クルミちゃんは現れる。


 きっと今回も七星くんは、
 私よりもクルミちゃんを選んで、
 私の前から二人で消えていくんだろうな。


「あ……ああ。
 じゃあ、りっちゃん……またね」


 七星くんは、
 少し陰のある微笑を私に向けると、
 クルミちゃんと行ってしまった。


 やっぱり……

 クルミちゃんには勝てないね……


 七星くんがクルミちゃんを
 好きって知っているのに、
 話しかけられると期待してしまう。


 クルミちゃんじゃなくて、
 私を選んでほしいって。


 そしてすぐに、後悔するんだ。


 ちょっとでも
 期待なんかしなきゃよかったって。


 七星くんのことを諦めるって決めたのに。


 私なんかが好きになって
 もらえるはずないって、
 わかっているはずなのに。


 七星くんに話しかけられるだけで、
 簡単に七星くんへの思いが溢れてきてしまう。


 どうしたら七星くんのこと、
 忘れられるんだろう……