放課後。


「六花、また明日ね」


「桃ちゃん、今日もバイト頑張ってね」


 お小遣いは自分で稼ぐ!と
 子供の頃から叩き込まれた桃ちゃんは、
 授業が終わると、
 呉服屋の手伝いのため急いで帰って行く。


 私も早く帰って、
 速攻で夕飯作って、テスト勉強しなきゃな。


 そう思って、カバンに荷物を詰め終えた時、
 七星くんが私に向かって歩いてきた。


 しかも、真剣な顔で。


 どうしよう……


 もう逃げられない……


「りっちゃん、ちょっといい?」


「わ、私……用事が……」


 たどたどしい日本語が口から飛び出し、
 ごまかしきれない状況に困惑。


「俺のこと……避けてる?」


 ひえ~~


 一番つつかれたくないことを、
 直球で言われちゃったよ~


 どうしよう……

 なんて返事すれば……


「もしかして……俺の作ったお弁当……
 まずかったとか?」


 へ? 


「食べたら、お腹痛くなった? 
 気持ち悪くなっちゃったとか?」


 心配そうな目で、
 私を必死で見つめる七星くん。


 そんな必死な瞳で見つめられたら、
 七星くんのことなんか、
 嫌いになれないよ……


 その時、廊下に黄色い声がこだましていた。


 その声がどんどん大きくなってと思ったら

「あ~いた。いた。六花!」

 教室のドアに手をかけ、
 紫音くんが私を呼んだ。


 ちょっと待って!!


 紫音くんの後ろに、
 女子たちが群がっているんですけど……


 みんな私の方を見て、
 睨んでる気がするんですけど……


 紫音くんは、
 そんな取り巻き女子を無視して、
 ズカズカと教室に入ってきた。


「今、取り込み中だった?」


「そんなこと……ないけど……
 どうしたの?紫音くん?」


「六花、今から一緒に帰らない?

 テスト前だから、
 バスケ部の練習が休みになってさ」


 え!!!!

 突然、なに?


 私と……一緒に帰る??


 どうしよう。


 今ここで、紫音く帰ることをOKしたら、
 紫音くんのこと好きだって
 七星くんに勘違いされちゃうかも。


 それは嫌。


 嫌……だけど……


 今は逃げたい……


 七星くんの前から逃げたい……


 これ以上一緒にいたら、
 七星くんへの思いは
 募っていっちゃいそうだから……


 でも一つだけ……

 これだけは、確認させて……


「七星くんは、
 クルミちゃん達と帰るんだよね?」


 そんなことを聞かなくても、
 わかっていることなのに、
 少しだけ期待をしてしまう……


 私を選んで、欲しいって……


「あ……ああ」


 そうだよね。当たり前だよね。


 もし今の答えがNOで、
 クルミちゃんより私を選んでくれていたら……

 そしたら……


 やっぱり七星くんのことを、
 好きでい続けようと思ったのに。


「紫音くん、一緒に帰ろ」


「六花、いいの?」


「うん。
 七星くん……またね……」


 これが七星くんに向ける、最後の笑顔。


 このバイバイは、
 私の恋を終わらせる覚悟のようなもの。


 最後くらい、
 せめてかわいいって思ってもらいたくて、
 飛び切りの笑顔を七星くんに向けた。