「これが六花で、これが俺だろ。
 それでこれが一颯な」


 マコちゃん人形は1体だけじゃなく、
 パパとお男の子も入っていた。


 この3体を、どうしろと言うんだ……

 六花に……


「で、この人形は俺だけの物。
 よく見て見ろ!

 亡くなった雪ちゃんにそっくりだろ?」


 親父は、母さんに似ていると
 思っちゃっているその人形を、
 大事に抱きしめた。


「六花、どうだ? 気に入ったか?」


「う……うん。私、欲しかったんだ…… 

 幼稚園の頃……」


 『幼稚園の頃』ってところ、
 親父に聞こえるように
 もっとはっきり言ってやれよ!


 そう思うが、これが六花だ。


 親父の気持ちを踏みにじることなんて
 しないっていうのは
 俺が一番よくわかっている。

 
「お父さん、ありがとう」


「良かったよ。りっちゃんが喜んでくれて。

 会社の人に聞いてよかったよ。
 娘ちゃんの誕生日に何をあげたかって」


「親父さ、その人の娘って何歳?」


「う~ん。小1だったかな?」


 これが俺の親だと思うと、情けなくなる。


 小1の子が喜んだものを、
 高1の六花も喜ぶと
 本気で思っているところが……


「六花、いらないならいらないって、
 正直に言えよ」


「え……う……嬉しいもん……
 マコちゃん人形……」


「ほら、一颯!
 りっちゃん喜んでいるだろ!

 じゃあお前は、何あげるんだよ! 
 りっっちゃんに」


 六花へのプレゼントか……


 あるにはあるんだけど……



 俺がふと六花を見ると、
 胸元に揺れている星を見つけた。


 金色に光る星のネックレスを。


 昼間、七星のシャツの隙間から
 見えたネックレスと……同じだ……


「は?

 なんで俺が、六花に誕生日プレゼントを
 あげなきゃいけないわけ?

 金がもったいない」


「一颯、本当にケチだな。
 そんなんじゃ、六花に嫌われるぞ」


「別に、こんな奴に、好かれたくないし」


「私だって、
 お兄ちゃんからのプレゼントなんか
 もらいたくないもん」


 六花は口をプーっと尖らせて、
 キッチンに行ってしまった。


 俺も心のイライラが抑えきれなくなって、
 自分の部屋に逃げ込んだ。


 そして、クローゼットの中の青い箱を開け、
 六花へのプレゼントを投げ込んだ。