「悪く……ないじゃん……」
え?
悪く……ない……?
それって……
似合ってるってこと……?
180度予想外のお兄ちゃんの答えに、
ビックリして言葉すら出ない。
お兄ちゃんを見ると、
なんか、顔が真っ赤なような……
そっか~。
友達の前だから、
優しい兄を演じているんだね。
結局、
一番聞きたかった七星くんの感想は、
聞けずじまいだった。
それから私は、浴衣を脱ぎ、
真っ赤なワンピに桜色のエプロンを巻いて、
キッチンに立った。
我が家は、オープンキッチン。
キッチンの前に、
6人掛けのダイニングテーブルがあり、
テーブルの右側には、
テレビ&ソファのあるリビング。
そしてテーブルの左側には、
6畳のこ上がりの畳スペースがある。
建築士のお父さんが、
大好きなお母さんと私が
並んでキッチンに立つ姿を、
家のどこからでも見られるように、
この間取りにしたんだって。
お兄ちゃんや七星くんたちは、
リビングで、
私の子供の頃の写真を見て、
盛り上がっている。
さあ、
ただいまから格闘の時間です。
お父さんが仕入れてきたタコさんを、
さばかなければいけません。
どうしよう……
タコさんに触りたくもないよ……
でもみんなに言っちゃったからな。
『タコは私に任せて』って。
塩もみはしてあるって、
お父さんが言っていたから、
とりあえず茹でればいいよね。
大きなお鍋にお湯を沸かした。
さあ、六花! 頑張れ!
タコを鍋に、放り投げるんだ!
自分にエールを送りながら、
タコをつかんで一気に鍋へ!
「キャ!!」
タコをお湯にドボンした勢いで、
熱湯が私に襲い掛かってきた。
「六花、大丈夫か?」
さっきまでリビングにいたお兄ちゃんが、
気づくと私の隣にいたから、
そっちの方がびっくりしっちゃった。
「腕、赤くなってんじゃん。
早く水で冷やせよ」
お兄ちゃんにいきなり手をつかまれて、
水道の水の中に突っ込まれた。
「お……お兄ちゃん……いいよ。
そんなに痛くないから」
「もう少し、冷やしとけよ。
六花はドジなんだから、
本当に気を付けろよな」
お湯がかかったところが、
地味にひりひりして、
上から目線のお兄ちゃんの態度が、
よりムカついた。
「もういいから!
お兄ちゃんは、リビングで待っていて!」
「ちゃんと冷やせよ!」そう言い残して、
お兄ちゃんはまた、
リビングに戻って行った。
視線をリビングにいる七星くんに向けると、
やけどのヒリヒリが、急に痛みを増した。
七星くんの隣には、
ぴったりとクルミちゃんがくっついている。
何を話しているか全くわからないけど、
クルミちゃんの全開の笑顔を見て、
七星くんも笑っている。
なんで七星くん……
お誕生会に来てくれたんだろう……
たこ焼きが……
そんなに食べたかったのかな……
七星くんとクルミちゃんの
耳についているお揃いのピアスが、
私を突き放しているように感じて、
私は七星くんたちから、視線を外した。



