この玄関ドア……

 開けたくないな……


 私がなかなか、
 ドアノブに手を掛けられないでいると……


 お兄ちゃんが後ろからきて、
 ガバッとドアを開けた。


「六花ちゃん、お誕生日おめでとう」


 ツインテールのクルミちゃんが、
 飛び切りの笑顔を振りまいていた。


 その横で七星くんは、
 控えめに微笑んでいた。


 本当にこの二人は、お似合いだ。


 超レベルの高いカップルにしか見えない。


 私が、『あがって』と伝えようとした時、
 先にお兄ちゃんの口が動いた。


「七星くんと、クルミちゃんだっけ。

 わざわざ六花の誕生日会に
 来てくれてありがとうな。

 それにしても、二人ともお揃いで、
 すっげー似合ってんじゃん」


 七星くんの前で、
 優しいお兄ちゃんを演じてくれて、
 ちょっと安心。


 でも、
 『二人ともお揃いで、似合っている』って、
 何のことだろう。


「さすが、オシャレな一颯先輩!
 まさか、
 こんな早くに気づかれちゃうなんて。

 ピアス、お揃いなんだよね~。七星」


 ピアス?


 クルミちゃんの耳元に目をやると、
 小指の爪くらいの、
 ブルーの石がはめ込まれた
 ピアスをつけていた。


 隣の、七星くんの耳にも……


 お揃いのピアスを付けるほど、
 仲良しなんだね。


 わざわざ、
 私の誕生日会にもつけてこなくても……



 作り笑いでもなんでもいいから、
 笑顔を作らなきゃと思うのに、
 思えば思うほど、
 顔の筋肉が動かなくなっていく。


 その時、七星くんが口を開いた。


「りっちゃんもお揃いだから」


「え?」


 私もお揃いって?


「これ、六花ちゃんへの誕生日プレゼント。
 私と七星からね。開けてみて」


 クルミちゃんの言葉に、
 袋の中を覗くと……


 その中には、イヤリングが入っていた。


「七星とお店に見に行ってね、
 3人でピアスをお揃いにしようってなったの

 でも、六花ちゃんはピアスの穴、
 開けてないでしょ?

 だから、
 同じデザインのイヤリングにしたんだ」


 私にはもったいないくらい、
 オシャレなイヤリングだった。


 でも……
 
 七星くんとクルミちゃんの石はブルーなのに
 私だけ……ピンク。


「どう? 
 六花ちゃん、気に入ってくれた?」


「う……うん。
 こんな綺麗なイヤリング、
 本当にもらっちゃっていいの?」


「いいの!いいの!

 3人でお揃いって、
 なんか仲良しって感じで嬉しいじゃん。
 ね、七星」


「あ……うん」


 七星くんに肩をくっつけて、
 嬉しそうに笑っているクルミちゃん。


 多分私は、このイヤリングを見るたびに、
 モデルみたいに洗練された
 クルミちゃんのこの笑顔を、
 思い出してしまうと思う。


 そして心が、
 ぎゅーって痛くなると思う。


「六花、あがってもらったら?」


 お兄ちゃんの声に、はっと我に返った。
 まだ玄関先だった。


「ごめんね。
 クルミちゃんも七星くんも、あがって」