「お兄ちゃん!」
ガチャン!
背中越しに
声を掛けたのがいけなかったかな?
お兄ちゃんはよほどびっくりしたのか、
体がピクリと跳ね、
持っていたスプーンを床に落とした。
「おい、六花!
いきなり声かけんじゃねえよ!」
ひえ~~~
お兄ちゃん……怒り出しちゃったし……
でも、ここで私が反発したら、
せっかくのスペシャルディナーが水の泡。
いつも夕飯は、
家族分を500円以内で作っている。
でも今日は牛肉だけで、
500円もかけちゃったんだから。
贅沢料理なんだから。
落ち着け、落ち着け六花。
スマイル、スマイル。
子供の時に、
七星くんからもらったお守りをこすり、
なんとか気持ちを静める。
「お兄ちゃん、オムライスおいしい?
牛肉入りのデミグラスソース掛けに
してみたんだけど」
「ま、いつもの夕飯よりはマシじゃん」
キー!!
今回の夕飯は、
手間もお金もかかっているのに!!
ハンカチがあったら、
歯でひきちぎりたい気分!
『たこ焼き、たこ焼き、
たこ焼きパーティー!』
たこ焼きの歌を、
ムリヤリ頭の中で陽気に歌い、
なんとかギリギリ笑顔が作れた。
「今日の夕飯は……
お兄ちゃんに喜んでもらおうと思って……
一生懸命作ったんだけどな……」
「え?」
『今日だけじゃなく、
毎日一生懸命作れよ!』くらい、
きついことを言われる覚悟でいたのに。
目の前のお兄ちゃんの様子が、
なにか変。
顔が赤いというか……
モジモジしているというか……
どうしちゃったんだろうと、
私がお兄ちゃんを見つめていると。
「六花……
毎日ご飯……ありがとな……」
お兄ちゃんはうつむきながら、
ぼそりと言った。



