時すでに遅し……


 俺の目の前で、
 スローモーションのように開けられた、
 青い箱。


 さすがにこっちの箱の中身は、
 赤い箱以上に
 恥ずかしいものが入ってんだけど……


 きっと十環の奴、
 笑い転げて俺をバカにする。


 そう思っていたのに……

 
 十環は、さっきまでのニコニコ笑顔が
 サーっと消え、
 鋭い瞳で、俺に言い放った。


「ねえ、一颯……
 大学受かったら……
 この家から出ていった方が良いかもね」


 この家から……出ていった方が良い?


 は? それって……どういう意味だよ?


 十環が、
 こんなマジな顔になることなんて
 滅多にない。


 だから余計に、
 十環の口から出た言葉の重みが、
 俺の体をしびれさせる。


「それって……?」


「え……あ……ごめん、ごめん。
 今の無し! 無し!

 俺、なんか違うこと考えていたみたいでさ。
 何言ってるんだろう。俺」


 作り笑いを浮かべ、
 必死にごまかしている十環を見れば見るほど、
 十環の言った言葉が、
 俺の心に深く突き刺さっていく。

 
「一颯、俺、そろそろ帰るね。

 姉さんに頼まれていたんだった。
 ドラマの録画おしておいてって。

 残ったチョコパイ、全部食べていいからね」


 十環はいつものように
 優しい笑顔を俺に見せると、
 『明日ね』と言って、
 俺の部屋から出て行った。


 ススキが風で揺れるように、
 俺の心は、さわさわし出した。


 俺は、ベッドに座っていた
 つぶらな瞳のごんぞうを、
 ギューっと抱きしめずにはいられなかった。