「ねえ、一颯、あの赤い箱見せて」


 あの赤い箱?


 十環の視線先は、俺の勉強机の上。


 あの箱の中には、
 受験勉強用の英語の単語カードが
 入っているだけ。


 あれを見られても、
 別になんてことないし。


「いいよ」


 俺は机に向かって、
 赤い箱を手に持とうとした時


「その箱じゃなくてさ、
 クローゼットに大切にしまっている
 赤い箱があるじゃん。

 あれって、一颯の宝物物入れでしょ?」


 ヒャ~~!! 

 そっちの赤い箱か!!


 さすがにその箱の中は見せられないな……


 いくら親友の十環でも……


「その箱は……ちょっと……」


「じゃあ、りっちゃんに言っちゃおうかな。

 一颯くんは嘘つきですって。

 実は……甘いものが大好きなんですって」


「は? は? なんだよそれ?」


「他にもりっちゃんに言われたくないこと、
 あるよね?」


 こいつ、俺を脅してきやがった!


「ん……もう……わかったよ!」


 俺は食べようとしていたチョコパイを置くと、
 クローゼットの扉を開けた。


「見たいなら、見ろよな。
 そのかわり、笑ったら怒るからな」


「俺はいつも笑っているよ。
 じゃあ遠慮なく見せてもらうね」


 十環が、赤い箱のふたを開けた。


 恥ずかしすぎて、
 飲んでいた麦茶が毛穴から吹き出しそう
 なんですけど……


 箱の中には、
 六花が俺に笑いかけてくれていた
 ころの写真や、
 六花が俺にくれたものなどが、
 ぎっしり詰め込んである。


 十環は、六花が幼稚園の時に描いてくれた
 俺の絵をヒラヒラさせて、
 満面の笑みを浮かべて言った。


「そういうことね。

 一颯くんの宝箱には、
 りっちゃんとの思い出が
 詰まっているってことね」


 十環のそのニヤニヤ笑顔、
 気持ち悪いんだけど……


「どうせ、気持ち悪いとか思ったんだろ?」


「全然。逆に安心した~

 一颯がいっつも、
 赤い箱の中身を見せてくれないから、
 りっちゃんの下着でも
 隠し持っているのかと思った。

 は~ 安心、安心。」


「は? 俺のこと、変態とでも思ってたわけ?」


「だから、違って良かったって、
 心から安心しているんだよ~

 それにしてもこの写真、
 りっちゃんが幼稚園くらい?
 天使みたいな笑顔してる~

 りっちゃんもかわいいけど、
 隣に映っている一颯もかわいすぎ!!

 あ、こっちの写真も」


「そうなんだよ!
 六花ってば、子供の頃からかわいくてさ。

 俺の後ろにぴったりひっついて、
 離れなくてさ。
 
 この写真なんて、
 六花が花のかんむりを
 俺に作ってくれた時のでさ。

 この頃は、
 『お兄ちゃん大好き! 大好き!』って、
 天使みたいな笑顔で言ってくれてたんだよ。

 それなのに……今なんて……
 『お兄ちゃんなんて、大嫌い!』だぜ。

 いくら俺だって、へこむっちゅうの」


「それは一颯が、
 りっちゃんに意地悪ばっかり
 しているからでしょ。

 俺にはできないな~。
 女の子をイジメるなんて」


 そういう十環の方が、
 女の子を泣かしてると思うけどな。


 女の子には誰にでも優しくして、
 自分のことを好きにさせておいて、
 告られても『彼女は作らないから』と
 柔らかな笑みで断って。



「ま、赤い箱の中は、
 りっちゃんとの写真や、
 思い出の物を入れてあるのはわかったから、
 もういいや。

 で、こっちの青い箱は?」


 十環は何をやっても許されるような
 満面の笑みを浮かべながら、
 隣の青い箱に手を伸ばした。


「バ……バカ……
 そっちは開けるなって!!」