「俺にはもう……
茜がいるから……」
そう……だよね……
わかっているよ。
お兄ちゃんは私よりも茜さんが好きで、
勝てないってことくらい。
だって私も、同じ女性として憧れるから。
凛としていて、
笑顔で周りを明るくするような、
あんな優しい人になりたいなって。
そして私は、
そんな女性に慣れないってことも。
これがお兄ちゃんと話す、
最後になるかもしれない。
私は必死に、明るい声を出した。
「お兄ちゃん……私帰るよ。
この手袋、茜さんに返してあげて。
ありがとうって伝えてね」
「もう暗いから、駅まで送る」
「いいよ。駅まで遠くないし。
それにクリスマスでしょ、
茜さんと二人だけで過ごす時間を
減らしちゃって、ごめんね」
「……」
「それともう一つ、
お兄ちゃんにお願いしてもいいかな?
お父さんが寂しがっていたら、
家に帰ってきてあげてね」
「は?」
「お父さんの話し相手が小雪だけだと、
辛いと思うから」
「なんだよ……
それ……」
せめて最後くらい、
一番かわいいと思ってもらえる笑顔を
お兄ちゃんに送りたい。
私は涙をぬぐうと、
とびきりの笑顔をお兄ちゃんに向けた。
「お兄ちゃん……バイバイ」
言い終わった瞬間、こらえていた涙が、
私の意志と関係なくあふれてきちゃったけど、
きちんと笑顔で言えた。
バイバイって。
そしてもう止められなくなった
涙をぬぐいながら、
必死で駅まで走った。
お兄ちゃんのために作った
ケーキとたこ焼きを、
置き去りにしたことも忘れて。



