そして、私の両手をつかむと、
いきなり彼女さんのほっぺに、
私の両手を押し当てた。
「やっぱり。
こんなに冷たくなってる」
え?
「寒かったよね?
はい。
これでちょっとは、温かくなったかな?」
彼女さんは、
まるでマリア様のように微笑むと、
自分の手袋をはずして、
私の手にはめてくれた。
「あ……あの……」
「体まで冷え切っちゃっているでしょ?
今、あったかい飲み物を買ってくるよ。
一颯、私、
近くのコンビニに行ってくるから」
「茜、そんなことしなくてもいいって!」
「嫌だよ。
ほっとくなんて、私が嫌だから」
そう言うと、私がお礼を言う間もなく、
タタタと駆けて行ってしまった。
「ったくもう、あいつは。
お人よしなんだから」
そう口にしたお兄ちゃんの顔が、
異様に優しくて、
彼女さんが大好きだって物語っていた。
「優しい、彼女さんだね」
「だろ?
お人よしにも、ほどがあるけどな」
言えないよ。
茜さんの駆けていく背中を、
こんなに愛おしく見つめるお兄ちゃんに、
今更自分の気持ちなんて言えない。
でも、
お兄ちゃんとなんでもいいから話したい。
「お兄ちゃん……
転校して……良かった?」
「まあな。
茜と出会って、毎日がすっげー楽しいからさ。
茜ってさ、お前と違っていつでも明るくてさ、
困っている奴を見ると放っておけなくて、
俺が隣にいること忘れて
世話焼きに行ったりしてさ。
俺、初めて出会った。
お前以上に、好きって思える奴に」
『私以上に、好きって思える奴』
この言葉が、私の心臓に突き刺さった瞬間、
心がうずいて痛み出した。
今すぐこの矢を抜きたいのに、
どんどん奥に入っていき、
体全部が心臓のように、
ドクンドクンと痛みが増していく。
そっかぁ……
そんなに好きなんだね。
茜さんのこと。



