「クリスマスだっけ?
どうするかなあ。
実家に帰る気はないし、
寮で漫画を読んですごすかな」
「え? そんなのもったいないよ!
クリスマスだよ!
イルミネーションも綺麗だよ!
寮にこもるなんてもったいないよ。
それならさ、私と過ごしてよ」
茜の言葉に、胸がチクリと痛んだ。
俺はまだ……
六花のことが……
は?
何を考えてんだよ、俺は!
六花のことを忘れるために、
家を出たんだろ?
転校までしたんだろ?
早く六花への思いなんか
消し去らなきゃいけないだろ!
俺は一生、
六花の兄として生きていかなきゃ
いけないんだから。
六花が選んだ大好きな人の前でも、
笑って二人の幸せを祝福できるように
ならなきゃいけないんだから。
そう思った時、
前に十環が言っていた言葉を思い出した。
『好きな人を忘れるためには、
別の恋っていうけど、本当かな?』
別の恋か……
そう思った時には、俺は言葉にしていた。
「お前と過ごすクリスマスも、いいかもな」
「え?」
「俺と、つきあってくれない?」
不安げな瞳で俺を見つめていた茜の表情が、
キラキラと輝きだした。
そして、目に涙を浮かべながら、
とびきりの笑顔で茜は答えた。
「うん。 私、一颯と付き合う」
その茜の笑顔を見て、
俺の心も嬉しそうに飛び跳ねた。
六花のことを忘れられるような、
心躍る恋ができそうな予感を、
その時の俺は確かに感じていた。



