☆一颯side☆


「ごんぞう!! 俺を、癒してくれ!!!」


 俺は十環と自分の部屋に入ると、
 ベッドの上に寝転がり、
 ごんぞうを強く抱きしめた。


「一颯って、あいかわらず好きだよね。
 その犬のぬいぐるみ」


「この家で、
 俺のことをわかってくれるのは、
 ごんぞうだけなんだよ!」


 俺はごんぞうをきつく抱きしめ、
 ベッドの上を右にゴロゴロ、
 左にゴロゴロ転がっている。


「一颯って、イライラすると、
 フライパンで焼かれるウインナーみたいに
 転がるよね」


「なんだよ! それ!
 俺は弁当に入れられるために
 生きてんじゃないぞ」


「まあまあ、
 いじけてる一颯もかわいいから、
 いいんだけどね。」



 俺と十環は、七星と六花の会話を、
 階段の踊り場で、盗み聞きしていた。
 
 七星が帰ったあと、
 忍者のように素早く、
 自分の部屋に逃げ込んだんだけど……


「まずい、まずい、まずい、まずい。

 このままじゃ、
 七星に取られちゃうよな? 六花のこと」


 いつでも穏やかな笑顔の十環に、
 『大丈夫だよ!』って言ってほしかった。

 
 それなのに……


「七星くんとりっちゃんは、両思いだね~」


 十環の奴! 


 仏さまみたいなニコニコ顔で、
 俺が一番聞きたくないことを
 ズバッと言いやがって。


 クマの鋭い爪で引っ掛かれたくらい、
 俺の心が傷ついたじゃないか!!
 

 自分の心をこれ以上、
 仏の十環にかき乱されたくなくて、
 俺は布団の中に、すっぽり隠れた。


 でも、二人が両思いだってことくらい、
 俺だって気づいてんだよ。


 六花が小5の時から、ずっと……


 その前から俺は、
 好きで好きでしょうがないんだよ! 


 六花のことが……