「もう一度だけでいいから……
お母さんに会いたいね……
そしたらお互い、
お母さんに謝れるのにね」
お兄ちゃんはコクリとうなづいた。
「お兄ちゃん……
明日から本当に、高校の寮に入っちゃうの?」
「ああ」
「行かないでって言っても……
ダメだよね?」
背中に抱き着いたままで、
お兄ちゃんがどんな表情をしているか
全くわからない。
お兄ちゃんは10秒くらいの沈黙の後、
「ごめんな」と口にした。
「じゃあ、1個だけ……
ワガママを聞いてほしい……
私が寝るまで……
そばに……いて……」
お兄ちゃんは肩越しに私を見つめた。
「寮に入る準備があるし、寝るまでだからな」
ちょっと悪魔口調のお兄ちゃん。
照れ隠しなのかな?って思ったら、
フフフと笑いが込み上げてきた。
「今、笑ったよな? 六花!」
「笑ってないよ、フフフ」
「って、言ってる傍から笑ってんじゃん!
あ~。
もう、六花のワガママ聞く気が失せた」
私はあわててお兄ちゃんの腕をつかんで、
お兄ちゃんの瞳をまっすぐ見つめた。
「もう笑わないから。 ね」
「しょうがねえな。
早く、布団に入れよ!」
「うん!」
私がベッドに寝転がると、
肩まで布団をかけてくれたお兄ちゃん。
床に立膝をつき、
私と同じ高さのお兄ちゃんの瞳。
お兄ちゃんの
私を見つめる瞳が優しすぎだよ。
穏やかに微笑むお兄ちゃんに
ドキっと心臓が跳ねて、
だんだん熱を帯びてきた私のほっぺを、
布団で隠した。
このままずっと起きていたい。
お兄ちゃんが、
私の前からいなくならないように。
そう思っていたのに、
お兄ちゃんの大きな手のひらで、
私の頭を優しく撫でてくれて、
その心地よさに、
いつの間にか私の瞼は落ちていた。



