白雪姫に極甘な毒リンゴを



「俺、母さんが亡くなる数時間前に
 酷いことを言っちゃったんだ」


「え?」


「母さんより……

 俺を産んだ本当の母さんのほうが……

 良かったって……」


 どういうこと?


「前の日に、友達を叩いたんだ。

 俺がずっと前に貸したゲーム本を、
 その友達が返してくれなくてさ。

 問いつめたら、
 ほかの奴に貸したっていうからムカついて。

 そのことで、母さんに怒られて。

 つい……言っちゃったんだ」


「そんなこと、お母さんが本気にしないよ」


「そんなことなかった。
 俺の前で、涙流したからね。あの母さんが。
 
 その顔を見たら胸が苦しくなったけど、
 『ごめん』なんて素直に言えなくて、
 そのまま家を飛び出してサッカーの
 練習に行ったんだ」


 お母さんが泣いたところなんて、
 私は見たことがなかった。


 いつも笑っていて、
 お父さんとたまにケンカをしても、
 私たちには笑ってくれる人だったから。



「だから母さんが亡くなった時、
 自分のせいだって思った。

 それなのに、
 俺のせいって思ったら苦しくなっちゃって。

 『六花のせい』って言っちゃったんだ。

 お前が俺の言葉に、
 ずっと苦しんでいたことを知ったのに……

 今まで苦しめて、ごめんな……」



 お兄ちゃんも、
 お母さんが死んだのは自分のせいだって、
 苦しみ続けてきたんだ。


 その辛さは、
 誰よりも私が一番よくわかっている。


 少しでも、
 お兄ちゃんの辛さを和らげてあげたい。


 お母さんが亡くなったのは
 お兄ちゃんのせいじゃないよって、
 教えてあげたい。


 私はベッドから降りると、
 お兄ちゃんの背中にぴたっと顔をくっつけて、
 後ろから抱きしめた。