「やっぱり、ここにいた」
私の耳元にある、お兄ちゃんの顔。
お兄ちゃんの声が、
私のヒーローだったお兄ちゃんと同じくらい
優しくて、
心がほわわんと温かくなった。
あの頃のお兄ちゃんに、
もう一度戻って欲しいって
ずっと願っていたから、
嬉しくてまた、涙が止まらない。
私はお兄ちゃんに包まれながら、
ヒックヒック鼻をすすって泣き続けた。
私が落ち着くと、
お兄ちゃんは私の隣に座った。
「六花、なんでここに来た?」
さっきまで抱きしめられていたことが
急に恥ずかしくなって、
お兄ちゃんの顔が見られない。
でも、私の耳に届くお兄ちゃんの声が、
真冬の庭に照り付ける
お日様のように温かくて、安心した。
「一番の思い出だから。
お母さんとお兄ちゃんと3人で、
この公園でたこ焼きを食べたことが」
「そっかぁ……」
「たこ焼きを食べている私に、
いっつも微笑んでくれていたでしょ。
あのお兄ちゃんの笑顔……
大好きだった。」
お兄ちゃんは無言のまま、
砂場で笑いあっている親子を
ずっと見つめている。
「お兄ちゃんが、
『明日のお弁当はたこ焼きにして』って
言ったことあったでしょ?」
「ああ」
「あの時ね、正直言うと
『たこ焼きなんか作りたくない』って思った。
だって、押し入れの奥からたこ焼き器を
出してこなきゃいけなかったし、
早起きして、
朝一でタコを買いに行かないと
いけなかったから」
「……」
「断ろうと思ったよ。
たこ焼きじゃなくて、
違うお弁当を作ろうかとも思った。
でも、どうして
たこ焼き弁当を作ったかわかる?」
お兄ちゃんはうつむいたまま。
「お兄ちゃんがたこ焼きを食べれば、
私にもう一度、微笑んでくれるかなって
期待しちゃったから。
お母さんと3人で、
このベンチに座ってたこ焼きを食べた
あの頃みたいに」
長い沈黙の後、
お兄ちゃんがずっと閉じていた口を
ようやく開いた。
「本当は……
たこ焼き弁当を
置いていくつもりじゃなかった」
どういうこと?
確かあの時は、
朝もたこ焼きを食べさせられたのに、
昼もたこ焼きにするなって怒っていたよね?
「あの日の朝、六花を見てムカついたから」
え?
「私何か、ひどいことしちゃった?」
お兄ちゃんは視線をそらしたまま、
ぶんぶんと首を横に振った。



