白雪姫に極甘な毒リンゴを


☆六花side☆


「この場所、大好きだったなぁ」


 公園のベンチに座って、
 お母さんと遊びまわっている
 幼稚園に入る前くらいの子供たちの
 無邪気な笑顔を眺めていた。


 私も小1までは、
 この公園でよく遊んだな。

 お母さんと、お兄ちゃんと3人で。


 この公園は、
 家から歩いて15分くらいのところにある。


 子供の頃のお兄ちゃんは、
 どうしてもここの公園が良いって
 駄々をこねてばかりいたから、
 休みのたびに、連れてきてもらっていたっけ。


 公園の隣には駄菓子屋さんがあって、
 お兄ちゃんはそのお店の
 たこ焼きが大好きだった。


「熱いから、気を付けて食べろよ」


 そう言っては、いつも自分より先に、
 私に食べさせてくれていた。


「な、やっぱりおいしいだろ?」


 そう言って満足そうに微笑んでから、
 お兄ちゃんもたこ焼きを頬張っていたっけ。


 お母さんが生きていたころのお兄ちゃんは、
 私が泣いたらすぐに飛んできてくれる、
 スーパーヒーローみたいな存在だった。


 優しくて、大好きでしかたがなかった。


 おにいちゃんのこと。


 
 9年ぶりに、
 その駄菓子屋さんで買った、このたこ焼き。


 一口食べたと同時に、
 涙があふれ出してきた。


 あの頃に戻りたい。


 お母さんとお兄ちゃんと3人で、
 このベンチに座って
 たこ焼きを食べていたころに。


 右手はお兄ちゃん、
 左手はお母さんがつないでくれて、
 3人で家まで歩いたあの頃に。


 お母さんが亡くなって、
 9年も経っている。


 私ももう高校1年生。


 周りに心配かけたくなくて、
 平気なふりをしているけど、
 やっぱりお母さんと楽しそうに
 笑いあっている人を見ると、
 苦しくなったりするんだよ。


 会いたくて、しょうがないんだよ。

 お母さんに……



 涙がとめどなくあふれてきて、
 ぎゅーっと唇をかみしめた。


 それでも涙は止まることなく、
 ぽたぽたとスカートを濡らしている。


 もう、
 たこ焼きなんて食べるのをやめよう。

 
 だって、お母さんのことを思い出して、
 会いたくてしかたがなくなっちゃうから。


 そう思って、たこ焼きの蓋を輪ゴムで止め、
 ベンチに置いた瞬間、
 私の背中が、毛布でくるまれたように
 温かくなった。


 背中から抱きしめてくれているのは、
 お兄ちゃんだった。