白雪姫に極甘な毒リンゴを


 次の日の昼休み。


 『放課後に六花の傍にいてあげて欲しい』と
 紫音に伝えに行くため教室を出たとき、

「一颯先輩!!!」

 前の方から誰かが、
 俺を大声で呼んで駆け寄ってきた。


 『お前って、
 そんな大きな声出せたんだな』と
 感心した相手は、七星だった。


 そんな真剣な瞳なんてして、
 どうしちゃったんだよ?


「赤城さんって、家にいるんですよね?」


 は?


「学校を休む連絡も来てないって、
 先生が言ってたから」


「それって、
 六花が学校にいないってこと?」


「はい。
 赤城さんって、お母さんの命日でも毎年、
 学校に来ていましたよね?

 今日だけなんでいないんだろう?って
 思ったら、心配になっちゃって」


 確かに母さんの命日でも、
 六花は絶対に学校に行っていた。
 


 昨日、俺のバイト先まで会いに来たのは、
 六花のSOSだったのかもしれない。


 だから俺に言ったんだ。


 『明日だけでいいから、家にいて』って。


 俺は自分の席に戻ると、
 急いでカバンに荷物を詰め始めた。


 そして、心配そうに顔をゆがめている
 七星のもとに、駆け寄った。


「お前って、良い奴だな」


「え?」


 七星が、
 びっくりした表情で俺を見つめた。


 俺は今日で、この学校を去る。


 転校をして寮に入る。


 俺は決めたんだ。


 完全に、六花の前から消えることを。


「七星に頼んでいいか?

 これからも六花が辛そうにしてたら、
 助けてやって」


「それって、どういう意味ですか?」


 俺は七星に心から微笑むと、
 「よろしくな」と告げて廊下を走りだした。