十環の家につくと、
俺は鍵を開けてもらうために
インターフォンを押した。
「お帰り、一颯」
あいかわらず、
人を包み込むように微笑む十環を見たとたん、
六花の傍にいたい自分の思いが、
あふれ出してきた。
「どうした? 一颯?
早く入りなよ。
夕飯できてるよ」
「……食べられそうにない」
目頭が熱くなって、涙腺が刺激されている。
十環の前でなんて泣きたくなくて、
俺はグーッと歯をくいしばった。
「じゃあ、チョコパイ食べる?」
十環の優しさが、胸の奥にしみこんでくる。
俺は顔をあげられないまま、
コクリとうなずいた。



