白雪姫に極甘な毒リンゴを


☆一颯side☆

 俺……

 本当に何やってんだよ。


 居候をさせてもらっている
 十環の家に向かうバスの中で、
 六花のことを思い出していた。


 今にも泣きだしそうな顔の
 六花が俺に言ったこと。


『お兄ちゃんと……一緒がいい……』


 華奢な肩をぶるぶる震わせて、
 必死に訴えていた六花を見たとき、
 思ってしまった。


『やっぱり俺、六花が好きだ』って。


 実家を離れてから、
 一生懸命忘れようとした。


 嫌いになろうとした。 


 六花のことを。


 でも、
 そんなの無理に決まってんじゃん。


 4歳の頃からの六花との思い出なんて、
 1週間じゃ思い出せないくらい
 たくさんあって、
 ふとした瞬間に俺の脳裏に
 勝手に映し出されるんだから。


 無邪気な笑顔の六花も。

 
 ぷーっとほっぺたを膨らまして
 怒っている六花も。


 エプロン姿で、
 俺に弁当を手渡ししてくれる六花も。


 七星とお揃いのネックレスをつけて、
 恥ずかしそうに微笑んでいる六花でさえも、
 今思い出すと、愛おしくてしょうがない。


 俺は決めたんだ。


 六花への恋心がなくなって、
 『兄』として六花に
 笑いかけることができるようになるまで、
 家には戻らないって。


 明後日からは、
 高校の寮に入らせてもらえることになった。


 大学に受かったら、
 一人暮らしもさせてもらえることになった。


 そうやって六花から離れていれば、
 時間が解決してくれる。きっと。


 明日は母さんの命日。


 本当は俺が、
 六花の一番近くにいて、
 辛さを和らげてあげたいって。


 でもそれが叶わない今は、
 紫音に頭を下げるしかないか。


 明日の放課後、
 六花と一緒にいてやってって。


 紫音は六花のためなら、
 バスケを休んでくれると思うから。