☆六花side☆


 朝起きたら、
 もうお兄ちゃんは家にはいなかった。


 お父さん曰く、当分の間、
 十環先輩の家に泊まらせてもらうらしい。


 どんな顔でお兄ちゃんに会えばいいか
 わからなかったから、正直ほっとした。


 しとしとと冷たい雨が降る中を、
 学校まで歩きながら
 昨日のことを思い出している。


 今でも夢なんじゃないかってことが、
 昨日だけで2回も起きた。


 一つは、七星くんに告白されたこと。


 ものすごく嬉しかったのに、
 『七星くんとは付き合えない』って
 思ったことに、自分が一番びっくりした。



 そしてもう一つは、
 私のことを恨んでいるって
 思っていたお兄ちゃんに、
 子供の頃から私を好きだって言われたこと。


 お兄ちゃんが私を好きだなんて、
 今でも信じられない。


 赤城家の呪いなんて嘘をついて、
 外出する時にはダサダサな格好を
 させられていた。


 私はブスでキモイんだから、
 男の人に笑いかけるな。キモがられる。って
 洗脳されてきた。


 お兄ちゃんの命令は絶対だったし、
 言うことを聞かないと、
 雷の中を仁王立ちで見下す魔王のように、
 怒鳴りつけられた。


 好きな相手に、
 普通はそんなことしないでしょ?


 もっと優しくするでしょ?


 だから、違う。


 お兄ちゃんが私に『好き』って言ったのは
 ただ私をからかっただけだ。



 そう思うのに、
 昨日のお兄ちゃんの真剣な顔が
 頭に浮かぶたびに、胸が苦しくなる。



 『お前のことが好きなのに、
 その気持ちを抑え込んで
 今日まで生きてきたんだよ』


 そう言ってって、
 顔をゆがませながら泣いていたお兄ちゃん。


 忘れてって言われても、忘れられないよ。


 そんな辛そうな顔をされたら。