「七星くん。これどうぞ」


「イチゴミルク?」


「うん。
 小5の時、
 図書室まで本を運んでくれたでしょ。

 あの帰りに、
 自動販売機で大量に買っていたのを、
 七星くんに見られちゃったよね」


 七星くんは思い出したかのように、
 うなずきながら微笑んだ。


「赤城さんって、
 イチゴミルクが大好きなんだなって思ったよ」


「あれね……

 七星くんにあげるために買ったんだよ」


「え?」


「何個あげようか悩んでいたら、
 7個も買っちゃって。

 それなのに、七星くんを目の前にしたら、
 恥ずかしくて渡せなかったの」


 七星くんにとっては、
 私がイチゴミルクが大好きって
 勘違いしちゃっただけかもしれないけど、
 私にとっては、忘れられない出来事だった。


 だってこの時に、
 七星くんのことが
 好きになっちゃったんだから。


 5年間の片思いが始まった、
 最初の瞬間だったから。


「このイチゴミルクは、あの時のお礼ね。
 7個じゃなくて、1個だけど」

 
 七星くんは驚いた顔のまま数秒固まった。


「赤城さん、ちょっと待っていて」


「え?」


「すぐに、戻ってくるから。
 お願い。帰らないで待っていて」


 そういって、
 教室を飛び出して行ってしまった。