私は、真っ赤なノースリーブワンピに、
桜色のエプロンをつけて、
キッチンに立った。
「今日の夕飯は、野菜の肉巻きにしようっと。
千切りピーマンと人参を入れて。
でも、野菜嫌いのお兄ちゃんに
文句言われそうだな。
野菜なんて入れるな!肉だけにしろって!」
お兄ちゃんって言葉を発した瞬間、
あの憎たらしい顔が頭に浮かんだ。
昼休みに、
『カラスにたこ焼きを食べさせてみろよ』
と言わんばかりに、
私を見つめる、悪魔の顔が。
お兄ちゃんって、本当に嫌な奴!
ん?
いいこと思いついちゃったかも。
からしを、
お兄ちゃんの野菜の肉巻きにだけ
たっぷり入れちゃえば……
一口食べて……
『ギャァァァァ!!!』となること
間違いなし。
イヒヒヒヒと、
からしを握りしめ、
不気味な笑い声を発していると。
「どんな妄想しているわけ?」
「ヒャ!!」
突然現れたお兄ちゃんにビックリして、
私は持っていたからしのチューブを、
力いっぱい握りしめた。
からしは虹のように綺麗な弧を描き、
お兄ちゃんの赤いベストにべちゃり。
「六花!!!!! てめぇ!!!!!」
「だ……だって……
お兄ちゃんがいきなり、声を掛けるから……」
「俺のベストに、
シミが残ったらどうしてくれるんだよ!!」
その時、お兄ちゃんをなだめる優しい声が。
「一颯(いぶき)、
りっちゃんにそんなのに怒らないの」
お兄ちゃんの後ろから、
ひょこりと顔を出したのは、
十環(とわ)先輩だった。
「あいかわらず、りっちゃんはかわいいね」
仏さまみたいにニコニコしながら、
私の頭をなでる十環先輩。
「十環、六花に触んじゃねえよ」
「いいじゃん。
一颯(いぶき)の妹だと思ったら、
100倍かわいく思えるんだからさ」
「よく、かわいいなんて思えるよな!
こんなブスのこと!」
こんな美形の十環先輩に
『かわいいね』と言われたら、
ほとんどの女性はキュンときちゃうはず。
でも私は知っているんだ。
このピンク王子も、
お兄ちゃんとは違う意味で、
悪魔だってことを。



