白雪姫に極甘な毒リンゴを


「赤城さん!」


「は……はい!」


「カラスにあげるくらいなら、俺にちょうだい
 その、たこ焼き弁当」


 このたこ焼き弁当を、食べたいってこと?


 予想外のことが起こりすぎて、
 私の脳がついていけていない。
 

「いいけど……
 入ってないよ……たこ焼きしか……」


「いいの。
 赤城さんが作ったたこ焼きが食べたいから」


 私が作ったたこ焼きを……食べたい?


 そんなことを誰かに言われたことなんて初めて。


 ビックリして七星くんの顔を見た。


 七星くんの瞳に、
 私だけが映っていてドキッとした瞬間、
 微笑んでくれた七星くん。


 まるでシャボン玉が、太陽の光で輝くように、
 キラキラした笑顔だった。


 一緒にいる人を優しい気持ちにしてくれる、
 七星くんのこの笑顔。


 私はこの笑顔が大好き。
 
 8年前から、ずっと。



「七星!何してるの?
 お昼食べる時間、なくなっちゃうよ!」


 いきなり声がしてた方を見ると、
 10メートルくらい離れたところのベンチに、
 ツインテールの女の子が座っていた。


 同じクラスの美少女、クルミちゃんだ。


 日本人離れした大きな瞳と、
 綺麗な顔立ちで、彼女に惚れる男子も数知れず。


 七星くんとは幼稚園からの幼なじみで、
 いつも二人は一緒にいる。


 穏やかでアイドルのような
 さわやかな笑顔の七星くんと、
 モデルでもおかしくないようなクルミちゃん。


 二人は誰がどう見ても、
 お似合いのカップル。


 七星くんファンの女の子たちも、
 クルミちゃんに勝てる気がしなくて、
 みんな七星くんには近づけない。

 実は私も……その一人……


 こんなブサイクな私なんかが、
 七星くんに好かれるわけないことくらい
 わかっている。


 七星くんの隣にいたら、
 キラキラ輝く宝石と泥まみれの石っころくらい、
 釣り合わないことも……


 カラスから守るために
 たこ焼きを食べてくれたのだって、
 私だからじゃないよね。


 他の人が同じことをしていたら、
 きっと七星くんは助けていたよね……


 そう思ったら、
 スニーカーで踏みつぶされたように、
 心が痛みだした。


 早く…… 
 ここから逃げ出したい……


「赤城さん? どうかした?」


「い……いえ……なんでも……ないです……」


 私はうつむいたまま、お弁当を差し出すと、
 逃げるように走り出した。