12月30日晴れ。暮れも押し迫ったその日、私は1軒の閑静なマンションの前に佇んでいた。
自分の格好をまわし見て、おかしなところがないか確認する。
服装良し、手土産良し。
「よしっ!」気合い良し。
603号室のボタンを押して、インターフォンを鳴らす。
『はい』
「あ、えっと…三津谷です。」
『かなめ、いらっしゃい。今から迎えに行く。』
かたるくんの声に、少しだけホッとする。
手土産の袋をギュッと握る。
オートロックの鍵が開いて、中からかたるくんが現れた。
「おはよう。」
かたるくんは朝から爽やかだ。
「ひょっとして、かなめ緊張してる?」
私の笑顔がぎこちないことに気づいたようで、かたるくんが苦笑する。
「だって…。」
「大丈夫だよ。夏子さん、楽しみに待ってる。行こう?」
かたるくんが私の持っていた手土産を持ち、手を取ってくれた。
「おじゃまします!三津谷かなめです!」
私は勢い良くお辞儀をする。
「久し振り!来てくれて嬉しいわ。」
『伊吹夏子さん』が私を見て、ニコニコと笑う。
未だに信じられないのだけれど、伊吹さんは間違いなくかたるくんのお母さんだった。
お父さんが43才。
かたるくんいわく伊吹さんは34才。
かたるくんを16歳で産んだことになる。
今の私と同じ年だ。
「ごめんなさいね、驚かせちゃって。」
伊吹さんがうふふと笑う。
「夏子さん、趣味が悪いよ。」
かたるくんがため息をついた。
この前電車の中で、私はかたるくんが『伊吹さん』と歩いているのを見てしまったこと、その後『伊吹さん』とお茶をして色々とはぐらかされてしまったことをかたるくんに話した。
難しい顔をする私に、かたるくんはなんだか嬉しそうに、『恋人説』を訂正してくれたっけ。
「これ、かなめから土産。」
「あ、アップルパイなんですけど、良かったら。」
促されたソファーから一瞬腰を浮かすも、伊吹さんから立ち上がるのを制される。
「あ、かたる。悪いんだけどさ、コンビニでハーゲンダイツ、バニラ味買ってきて。」
「はあ?!」
かたるくんが伊吹さんの提案に渋い顔をする。
「だって、せっかくのアップルパイ、最高の食べ方で、かなめちゃんと食べたいじゃない?」
伊吹さんは有無を言わせない威圧的な笑顔を、かたるくんに向けていた。


