2学期の終業式が終わり、HRのため教室に戻る。

 今日の私はいつもと違う。
 廊下を颯爽と歩く。
 今日でこの思いに区切りをつける。


「かなめ…?なんか今日、雰囲気違くない?」

 そうですとも、なみさん。

「本当ねえ。髪もつやつやしてる。」

 ありがとう、優里亜ちゃん。
 一生懸命、ブローしたからね。

 
 髪もサラサラ、まつ毛もクルン。爪の先まで磨いてピッカピカだ。
 
 いつもより15倍は、女子力が高い自信がある。

「このあと『デート』のお誘いに行くんだ!」  

 気合いを入れる。

「何なに?それどういうこと?」

 2人が楽しそうに、間合いを詰めてくる。

「がんばって…いい思い出にしてくるよ。」

 そんな2人に苦笑して、私はそれだけ返答した。


 放課後、生徒玄関前で、兄ちゃんを待つ。

 大勢の友だちの中にいても、兄ちゃんがどこにいるのかすぐに見つけることができる。
 兄ちゃんの笑顔に心が高鳴る。

「兄ちゃん、ちょっといい?」

 私は3年男子の集団の中へ、思いきって飛び込んだ。


 兄ちゃんの手を引き、人気のない校舎の中庭まで連れて行く。繋いだ手が熱い。

「……。」
「どうしたの?かなめ、何かあった?」

 ずっと黙っている私を兄ちゃんが心配してくれる。それだけで胸が締めつけられそうになる。

 立ち止まり、振り返る。

「兄ちゃんにお願いがあるの。」

「なに?」

「…兄ちゃんの今日、これからの時間を私にください。」

「え?」

 兄ちゃんが戸惑いの声を上げる。
 私は空いているもう一方の自分の手をギュッと握って、たたみかけた。

「今日は、私の『かたる先輩』になってほしいの!…クリスマスイブ、2人だけで一緒に過ごしたい。」


「…どういうこと?」

 私は、『兄ちゃん』じゃなくて『先輩』として、私とデートしてほしいことを伝える。


「受験勉強の大事なときにごめん…。今日だけ、少しの間だけでいいの。」


「ちょ、ちょっと、待って。」

 私の急な懇願に、兄ちゃんは当惑していた。

「お願いします…。」


 兄ちゃんは口元に手をやり、

「長期戦で行くって決めたのに…なんでこんな…。」と1人ごちた。


 そして顔を赤くして、ゆっくりと頷いてくれた。