(…イングリッシュルームなんて、数えるくらいしか入ったことないもんな…)



喧騒の絶えない中央校舎を抜けて階段を上ると、さっきまでの賑わいが嘘のように静けさが広がる。

端っこに在るその教室の前に着いたとき、辺りはもう無音に等しかった。


イングリッシュルーム。


英語の教材や教科書、参考書がずらりと並べられているその教室は

主に3年生が勉強のために使う場所として知られている。…2年生のあたしは授業で入ったことがあるくらいだった。


他の教室と異なり、可愛らしく赤く塗られた扉が目印で

廊下から中の様子は見えない。…先輩方が勉強しているかもしれないと思い、呼吸をととのえて扉を開けた。



「…遅ぇ。菜穂なら走って来るぞ」



――…差し込む朝の陽に照らされて

その精悍で優美な顔立ちと圧倒的な存在感が、何もかもを支配しているかのように見えた。



神谷蓮。

…やっぱり彼の放つオーラは、並大抵のものじゃない。