「麗ちゃん。蓮くんのところ行ってみるといいかも」

「…え、」

「ひとりになれる場所、いっぱい知ってるから。ちょっと連絡してみるね」



そう言った菜穂は、やっぱり優しい表情をしていた。

…だからこそ、下駄箱の喧騒なんて気にならなかった。ぐちゃぐちゃで醜いこの気持ちを、菜穂が落ち着けて浄化してくれている気すらした。



「今ね、イングリッシュルームに居るって!英語の勉強してたのかな」

「でも…、」

「大丈夫。大丈夫だよ、麗ちゃん」



菜穂の「大丈夫」は、いつだって魔法のよう。

…その魔法はあたしに優しすぎて、気を抜くと大粒の涙を流してしまいそうだった。



「菜穂、ありがとう…」

「ううん。このくらいしか出来ないけど」

「そんな…」

「優しくて人想いな麗ちゃんの親友になれて、本当に幸せ」

「っ!」

「いつもありがとう。だいすきだよ」



…大丈夫。

きっと、大丈夫。


これで良かった。これが良かった。そう思えるようになる。



どうか、日向が幸せになりますように…。