「早く帰ります。あなたがいないと味気ない」


トクン、と優しく胸が鳴った。

そんなふうに言われたら、嬉しくなってしまう。紳士的な彼はきっと、あのマンションにひとりになる私を気遣っているだけなのに。

膝の上に置いたバッグに視線を落とし、複雑な気分で下唇を噛んだ。


しばらくしてTOBARIに着き、食堂に向かった私は、そこにいた人物を見てさらに複雑な心境に陥ることになる。


「あっ、来た来た。生巳!」


スタイル抜群のセクシー料理研究家、七岡慧子さんが、食堂の入口付近で手を振っていたからだ。

な、なんで七岡さんがここに?

驚きと、嫌な黒い感情が心の中にむくむくと湧いてくる。

彼女のことは知っていたが、この間本社で生巳さんに抱きついていた場面を目撃して以来、私の中で要注意人物になっている。

あのとき、ショックを受ける私をエイミーが慰めてくれた。『イクミンと同い年なんだって。誰に対してもあたし以上に超フレンドリーだから、気にしないほうがいいよ』と。

エイミーには、まだ生巳さんを好きになったと打ち明けていないにもかかわらず、いつの間にかそういう認識になっていたらしい。彼女は人の恋心にとても鼻が利くのだ。