敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

「森次さん?」


呼びかけると、はっとした彼女はようやく箸を動かし始めた。その表情はどこか浮かないので、少々気にかかる。


「あまり元気がないようですが、どうかしましたか?」

「いえ、あの……なんでもないです」


彼女は一瞬なにかを言いたげにしているように見えたが、愛想笑いを浮かべて首を振った。

どうしたのだろう、と眉をひそめたとき、どこからか軽快なメロディが聞こえてくる。

鳴っているのは、リビングのローテーブルに置きっぱなしになっている森次さんのスマホだ。彼女は席を立ち、それを手にしてわずかに目を開く。


「お母さんだ」


そう呟いて一度俺と目を見合わせたあと、「ちょっと、すみません」と丁寧に断りを入れてから応答した。

挨拶をしてから、お母さんは特にアクションを起こしていないようだが、今日はなんの用事だろうか。

ソファに座って話し始めた森次さんは、いたって普通の母子の会話を楽しんでいる。


「うん、うん。……あ、そういえば誕生日だね。すっかり忘れてた」


〝誕生日〟のワードに反応して、ソファのほうを横目でちらりと見やる。