敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

どうやら、勝手に名づけられた呼び名がひとり歩きしているようだ。本人もまんざらではないはずだが。


「で、とっくにウチから巣立っていった料理研究家さんが、今日はなんの用?」


社長が本題を切り出し、七岡さんは膨らませていた頬を元に戻して、突然ここにやってきた理由を話しだす。


「新しい料理を考えるヒント探しのために、日頃からいろんなお店に行ってるんだけど、そういえば社食はまだ未開拓だなと思って。どこかオススメのところありません?」

「オススメねぇ……。やっぱりTOBARIがいいんじゃない」


少しだけ考えを巡らせた社長は、ついこの間、俺と森次さんとで値上げ交渉をしに行った会社名を口にした。

七岡さんもピンときたらしく、ぱっちりと目を開く。


「あ、聞いたことがある! 確か、レストランみたいにリッチな社食なんですよね?」

「そう。基本は社員専用なんだが、桐原が担当してるし、口利いてもらえるだろ」

「ほんと!?」


くるっとこちらに向けられた顔は期待に満ちている。勝手なことを言う社長に、俺は脱力しながら腕組みをして、不満げな声を漏らす。