「久しぶりね。相変わらずインテリ気取っちゃって」

「あなたは相変わらず見た目も中身もくどくて胸焼けがしそうです」


置かれた手を素っ気なく離しながら悪態をつくも、彼女は「出たー、毒舌」とおどけて、ケラケラと笑った。

森次さんが森にひっそり咲いているスミレだとするなら、七岡さんはインパクトのあるハイビスカスといったところだろうか。俺はやはりスミレがいい。

ずれた眼鏡を戻す俺から離れた彼女は、デスクから面白そうにこちらを眺めている社長のもとへ向かう。


「ご無沙汰してます。社長もお元気そうで」

「ああ。七岡は最近ますます忙しいだろ。ネットでよく見るぞ」


社長の言う通り、彼女が日々料理を公開しているブログはランキング上位の常連なんだとか。その読者の中で、料理はさておき彼女の美貌を目当てに訪れている人はどのくらいだろう。

などと失礼なことを考えていると、社長が含み笑いして言う。


「肩書きは〝セクシー料理研究家〟だっけ? また大きく出たな」

「研究家にセクシーさは不必要です」


俺も続けば、彼女は心外だと言わんばかりに「その異名、私がつけたんじゃないから!」と猫のような瞳で俺たちを睨んだ。