アパートまで送るという専務のご厚意に甘え、助手席に乗り込んだ。すぐに着いてしまうが、ストレスを受けた心が彼とのひとときによって癒されていく。
「大事にならなくてよかった。心配しましたよ」
「来てくださって、本当にありがとうございます。あのままひとりだったら、ずっとコンビニから出られなくて私が不審者になるところでした」
少しでも気分を明るくしようと、はは、と軽く笑って茶化してみせる。しかし、専務の横顔は静かな怒りを湛えているのがわかる。
「低俗な輩がいるものですね。見つけていたらただじゃ済まさないんですが……」
声にも怒気や軽蔑が含まれていて、先ほどとは違う意味でゾッとした。
専務が本気で怒るところは見たことがないが、そうなったらかなり恐ろしそうだ。車を発進させる前に念のため警察に通報してくれて、対処もきっちりしているし。
だからこそ頼りがいがあるのよね、などと思っているうちに、アパートに着いてしまった。
ああ、またひとりか……。きっともう不審者はいないだろうけど、なんとなく心細い。
いや、こうして送ってもらっただけで十分だと自分に言い聞かせ、お礼を口にしようとしたときだ。



