敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

足音が止まったように感じていると、異常を察知したらしい彼の怪訝そうな声が耳に届く。


『森次さん、どうしました?』

「あ、あの、今、誰かにあとをつけられて……」


震える声で訴えた途端、専務の声色が切迫したものに変わる。


『どこにいるんですか? 電話は切らずに、とりあえず人がいる場所へ行ってください』

「はい……!」


指示の通りに小走りでコンビニに向かい、急いで扉を押し開けた。ここまで来れば、もう追ってはこないだろう。

普段は気にしない、扉が開いたことを知らせるメロディが、今はやけに呑気に聞こえる。明るい店内に逃げ込んで、ようやく後ろを振り返ることができた。

私のあとに入ってくる人はおらず、外にも人影はない。コンビニの明かりが見えたせいか、私が通話し始めたせいかはわからないが、ひとまず諦めたようだ。

一気に力が抜ける。深く息を吐き出し、へたり込みそうになるのを耐えて専務に告げる。


「アパートの一番近くのコンビニに入りました。もういないみたいです」

『わかりました。そのまま待っていて。十分ほどで行きます』

「えっ」


思わぬ言葉に驚き、お礼を言うのも忘れているうちに電話は切られてしまった。