敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

ざわざわしだす胸をなんとか落ち着かせ、背後に意識を集中させつつ歩調を速めてみる。足音も同じく速くなり、いよいよ怖くなってきた。

嘘でしょ……自分がこんな目に遭うなんて! どうしよう。アパートまではあと数分だけど、部屋まで知られてはいけない。

助けを求められそうな友達はエイミーくらいで、女性を巻き込むわけにはいかないし、かと言って警察を呼ぶのも大袈裟な気がする。万が一不審者じゃなかったら、という考えを拭いきれないのだ。

どうしたら……と焦りながら電話帳をスクロールしていると、桐原専務の名前が目につく。彼なら電話くらいしてもいいだろうか。

とにかく誰かと繋がりたい気持ちで一杯だった私は、思いきって通話ボタンをタップした。

お願い、出てください……!

早足で祈っている最中も、さっきよりも近くに気配を感じる。心臓がドクドクと脈打って苦しい。

恐怖に耐えつつ、足は無意識のうちにもっと明るい場所を求めて進んでいた。そしてコンビニの明かりが見えたと同時に、『はい』と聞き慣れた声がして、私はすがるように口を開く。


「専務!」


私が叫んだ瞬間、「チッ」と舌打ちするのが聞こえて背筋が凍った。やっぱり、なにか悪さをしようと企んでいたのかもしれない。