敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~


翌日は予定が変わることもなく、いつも通りの仕事をして定時の午後五時を迎えた。今日は夕飯の食材と、欲しかった本を買って帰るつもり。

本社を出たあと、まず新宿駅の本屋に寄った。そして、アパートの最寄である桜台駅付近のスーパーで食材を買い終えた今は、六時半になるところ。

辺りはもう暗くなっているし、早く本も読みたいし、さっさと家路を急ぐ。

駅から五分ほど歩き、人通りの少ない路地に入ってしばらくすると、後方から足音が聞こえてくることに気づいた。その時点ではたいして気にしなかったものの……。

バッグからスマホを取り出そうとして歩調を緩めたとき、後ろの足音も同じペースになる。奇妙に思ってなにげなく目をやれば、顔を隠すように俯くマスクをした人が視界に入った。


『電柱に隠れるようにしてじっと立ってる男の人がいたのよ。マスクした全身黒づくめの』

『やだ~、不審者?』


瞬時に近所のおば様方の会話を思い出し、背筋に悪寒が走る。

この辺りに怪しげな人がいたらしいことをすっかり忘れていた。でも、この時期マスクをしている人は珍しくないし、時間もたいして遅くないし、まさかね……。