敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

ホテルのロビーのような落ち着いた雰囲気で、カウンターにコーヒーマシンが設置されている。

そこに現れたのは、首から社員証を提げた三十歳くらいの担当者らしき男性。専務よりやや背が低くすらっとした体型で、爽やかな笑顔を浮かべる彼に、一瞬私の目が釘づけになる。

このお方もイケメンの部類に入るものの、私が注目するのは顔ではない。黒いセルフレームの眼鏡だ。

ウェリントン型でオシャレな印象のそれが、愛嬌のある小顔とマッシュウルフの髪によく似合っている。

ここでも優良な眼鏡男子をお目にかかれるとは!

……と、本来ならもっと心を弾ませていたはずが、なぜだか今はそこまでの感動がやってこない。ときめきをあまり感じないのだ。

どうしてだろう、彼の眼鏡の似合い具合もとても素敵なのに。


「お待ちしておりました。桐原さん、と……」


首をひねりたくなっていたものの、彼の視線が私に向けられて我に返り、慌てて名刺を差し出す。


「営業部の森次と申します」

「申し訳ありません。吉田が急きょ来られなくなったもので」


担当の吉田さんの代わりであることを専務が説明すると、TOBARIの男性は納得して頷き、名刺を受け取った。