「お母さん、それは──」

「私からです」


〝秘密だよ〟と無難に返そうとしたものの、隣から予想外の言葉が飛び出した。


「花乃さんは、ひたむきに仕事に向き合う姿が魅力的で。その真剣さの中で時折見せる愛らしい笑顔に惚れ込み、私から交際を申し込ませていただきました」


目を丸くして見やれば、彼もこちらを向き、眼鏡の奥の瞳を柔らかく細めて〝ね?〟という感じで微笑まれる。

心臓に矢が刺さるような感覚を覚え、卒倒しそうになった。

どちらかと言うと人見知りする私は、仕事中は特に静かだし、とびきり愛想がいいタイプではない。

もちろん〝愛らしい笑顔〟だなんて男性に言われたのは初めてなので、お世辞でも嬉しい……!

しかし、浮かれるのは心の中だけにしておいて、表向きの私は照れた笑みをこぼして頷く。


「そう、なの。でも、魅力的なのは専務……生巳さんのほうで」


ここは名前で呼んだほうがいいだろう、と瞬時に判断して言い換えた。普段口にしない名前を呼ぶって、ものすごく照れ臭くてむず痒い。

先ほどの専務の言葉は建前に違いないが、私は彼に対して本当に思っていることを口にする。