有咲さんも、コーヒーカップを手にほっこりとした笑顔を向ける。


「ふたりがうまくいって嬉しい。最初は、雪成さんの無茶振りでどうなることやら、って心配してたけど」


隣にいる旦那様にいたずらっぽい視線を送る彼女は、今は奥様の表情になっているのがわかった。

私も不破社長に顔を向け、姿勢を正す。


「社長には感謝しきりです。偽りの恋人関係を提案してくださったことが、すべてのきっかけでしたから。ありがとうございました」

「俺はきっかけを作っただけで、本物にしたのはふたりだろ。礼なんかいらないよ」


なんてことないといった調子でそう言った彼は、ひと口コーヒーを飲んでどこか含みのある笑みを浮かべる。


「それにしても、本当によかったな。これで白桐フーズと、森次印刷のお家騒動も円満解決だ」

「お家騒動?」


なにかあったっけ、と頭の中がハテナマークだらけになる私と同様、生巳さんも小首を傾げる。


「なんのことです?」

「ああ、まだ知らないのか。白桐フーズと森次印刷は取引相手だって」


社長の口からさらりと放たれた言葉に、生巳さんは目を丸くし、私は「ええっ!?」と小さく叫んだ。そんな話は初耳だから。