彼女は一瞬真顔になったものの、徐々にまた表情が歪んでいく。


「……なによ、説教? 私、優等生ぶる人、大っ嫌い」


心底不愉快そうに吐き捨てると、突然私の手首を掴んで歩きだした。

困惑する私を、車が一台路駐しているマンションの裏側の道に連れて行く。暗く、狭くて、周りには誰もいない。


「み、美香さん!?」

「おとなしく引き下がれば許してあげたのに、生意気なことを言うからよ」


一段と低い声が響いた直後、車からガラの悪い大柄な男性が降りてきた。この人も〝協力者〟のひとりなんだろうか。

美香さんは思わず身構える私を一瞥し、紅い唇の端を持ち上げる。


「この子、地味なくせして遊び相手が欲しいみたい。あなたもそういう子を求めていたんでしょ?」


飛び出したデタラメな言葉で、自分に危機が及んでいることを理解し、一気に血の気が引く。おそらく、和解できなかった場合、私を弄ばせるためにこの人を呼んでおいたのだろう。

青ざめる私に、男がニタリと卑しい笑みを浮かべた。