「あなたを特定したかったのと、ちょっと怖がらせようとしただけ。なのに、そいつは関係のない女性に手を出して捕まったらしいわ。あそこまでクズだとは思わなかった」


若干の苛立ちと呆れを滲ませて吐き捨てるが、とんでもないことをしたという自覚はあるのだろうか。

唖然として絶句する私に、恨みのこもった視線が突き刺さる。


「それで終わらせるつもりだったんだけど、ふたりがますます一緒にいるようになって、憎くて仕方なくて……。だから、あなたに直接お願いをしに来たの」


彼女はすっかり笑みを消し、冷たい口調で「桐原さんと、別れて」と告げた。

とにかく美香さんは、憎い私に仕返しをしたいようだ。そのやり方は悪質だが、彼女を騙した私も無条件に文句を言える立場ではないし、罰を受けたとしても仕方ない。

とはいえ、今の頼みだけは聞けない。


「……それは、できません」

「は?」

「私たちは付き合っていないから」


美香さんは思いっきり顔をしかめたものの、続けた私のひとことを耳にして、狐に摘ままれたような表情になった。