その欲に負けた私は、少し会話をしたあと「あの」と切り出した。
「先日食事をご一緒して、私がお手洗いから戻ってきたとき……慧子さんが専務と腕を組んでいるのを見たんです。ふたりの関係って……」
そこまでで、烏丸さんは私の聞きたいことを理解したらしい。眼鏡を押し上げ、含みのある笑みを浮かべて頷く。
「ああ、アレね。慧子さんはのろけてましたよ。『私たち付き合ってるの』って」
──そのひとことが刃物みたいに変化して、心臓をひと突きにされた気がした。
十分予想していたことなのに、はっきり知らされるとこんなにも胸が痛い。息苦しくて、気が遠くなる感覚がして、烏丸さんの言葉も曖昧にしか耳に入ってこない。
「すぐわかるのにな。あんなのうそ──」
「やっぱり、そうだったんですね」
目線を落としてぽつりと呟いた。烏丸さんは「え?」と声を漏らし、キョトンとする。
気を緩めたらこぼれてきそうな涙をなんとか堪え、私は無理やり口の両端を上げる。
「すみません、引き止めてしまって。同級会、楽しんできてください」
型通りの言葉を告げて、そそくさと去ろうとするも、彼が「ねぇ」と声をかけるのでつい足を止めてしまった。
「先日食事をご一緒して、私がお手洗いから戻ってきたとき……慧子さんが専務と腕を組んでいるのを見たんです。ふたりの関係って……」
そこまでで、烏丸さんは私の聞きたいことを理解したらしい。眼鏡を押し上げ、含みのある笑みを浮かべて頷く。
「ああ、アレね。慧子さんはのろけてましたよ。『私たち付き合ってるの』って」
──そのひとことが刃物みたいに変化して、心臓をひと突きにされた気がした。
十分予想していたことなのに、はっきり知らされるとこんなにも胸が痛い。息苦しくて、気が遠くなる感覚がして、烏丸さんの言葉も曖昧にしか耳に入ってこない。
「すぐわかるのにな。あんなのうそ──」
「やっぱり、そうだったんですね」
目線を落としてぽつりと呟いた。烏丸さんは「え?」と声を漏らし、キョトンとする。
気を緩めたらこぼれてきそうな涙をなんとか堪え、私は無理やり口の両端を上げる。
「すみません、引き止めてしまって。同級会、楽しんできてください」
型通りの言葉を告げて、そそくさと去ろうとするも、彼が「ねぇ」と声をかけるのでつい足を止めてしまった。



