敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

反射的にぎゅっと目を瞑った瞬間、フロアのほうから社員数人の声がして、生巳さんの動きが止まった。

会議を行う営業部の人たちが来るのだろうか。恐る恐る目を開けば、彼はすでに私から離れていた。

眼鏡をかけ直した彼はひとつ息を吐き、先ほどの冷徹さが少しだけ和らいだ声をかける。


「帰ったら話したいことがあります。絶対に部屋で待っていてください」


落ち着いてはいるものの、そこはかとない威圧感が滲んでいて、私は身体を強張らせたまま「……はい」と返事をするしかなかった。


 *

週末ということもあって少し仕事を片づけるのに時間がかかり、終業時間を一時間ほど過ぎてから退社した。

私よりひと足先に上がった生巳さんが、私を気にかけていたのは視線でわかったものの、特に接することはなかった。

彼がしたい話ってなんだろう。嫌な予感しかしなくて気が重い。

あんなに不機嫌そうな姿を目の当たりにしたのは初めてだったし、キスを迫られても決して甘い雰囲気ではなかったし……。理由はわからないけれど、怒らせてしまったことには違いない。

俯き気味にため息をつきながら、まだ明るいエントランスの外に出た、そのとき。