敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

同居生活だけでなく恋も終わらせる挨拶のようで、まるで自分からフラれた気分だった。

まだ生巳さんの気持ちを聞いたわけではないけれど、自分が想われている自信は限りなくゼロに近いから。

無性に切なくなって、彼の目を見られないまま、そそくさとミーティングルームを出ようとした。

そのとき、ぐっと腕を掴まれて引き止められる。


「……専務?」


振り向けば、静かな怒りを含んだ無表情の彼がいて、心臓がぎゅっと縮む。

おもむろに距離を詰めてくる彼から後ずさると、テーブルに腰が当たった。瞠目する私の視界に、気だるげに眼鏡に手をかける姿が映る。


「……ずいぶんあっさりと離れられるんですね」


美麗な素顔を露わにするとともに、抑揚のない低い声がぽつりとこぼれた。

いつもの穏和な生巳さんとは違う、ゾクリとするような冷たさが伝わってきて、若干恐怖にも似た感覚を抱く。

彼は、ビクつく私を囲うようにテーブルに手をつき、鋭さのある漆黒の瞳で捉える。


「やはり、あなたには教え込まないといけないようだ」


なにを?と、問いかけたくても声にならない私に、彼の薄めの唇が近づく。