敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

急激にざわめき始める胸を抑え、三人の会話に耳を澄ませる。


「私はこうやってくっつきたいんだけど、生巳は人前だとドライなのよね。ふたりきりのときは甘やかしてくれるのに」

「へぇ、桐原さんってそうなんですか。意外だな」


烏丸さんの声を耳に入れながら、頭の中には以前の生巳さんの発言が蘇る。


『他人の前であからさまな態度は取りませんよ。するとすれば、それは……ふたりきりのときに』


慧子さんも、彼の甘い素顔を知っているとしか思えない。しかも、過去の話ではなさそう。

周りの色が失われるような感覚を覚え、足を一歩後ろに引いた。生巳さんは、ややわずらわしそうな口調で言う。


「ええ。ですから離れてください」

「もう、照れちゃって」


表情は見えないが、慧子さんがのろけているのは声でわかる。この場から逃げだしたくて、私は再びお手洗いのほうへ引き返した。

ふたりはどういう関係なの? まさか……慧子さんが本当の恋人?

とにかく、元同僚で同い年という以外にも、きっとなにかの繋がりがあるはず。気になって仕方ないが、今は見なかったことにしなくては。

ドクドクと鳴る心臓を宥め、平静を保てるようになるまで、しばらく個室にこもっていた。