風呂からあがると、リビングに男の姿があった。

「おかえりなさい!」
「ただいま、紅花さん。お風呂に入っていたのですね」

 呆然としている与一に、男が声をかける。

「しばらく留守にしてすみません」
「いや、すみません。僕こそ。あの……いつも、先にお風呂いただいて」
「かまいませんよ」
「……先生」
「どうしました」
「もしかして。あまり寝てないのでは?」

 男の目元には、うっすらとくまができていた。

 これは夜な夜な女と遊んでいたわけではなさそうだな。

 いや、女といたからこそなのか……?

 そんなことを思い眉間にシワを寄せ男を見上る与一の顔をみて、ふっと柔らかい笑みをこぼす男。

「そんなんで車運転しちゃ危ないですからね」
「そうですね。気をつけます」
「食事は?」
「済ませてきました」
「そうですか。では、ゆっくり休んでください」
「世話焼き女房みたいですねえ」
「はい?」
「今夜は川の字になって眠ります?」
「遠慮しておきます」
「二人きりがいいですか」
「それは……どの二人で……?」
「ご想像にお任せします」
「想像なんてしません」
「もちろん。君と私のーー二人ですよ?」

 男に耳打ちされ、与一がかたまる。

 そんな二人の様子をみて少女がニッコリ笑った。